猫丸さんの感想、レビュー
猫丸
祖父に会いたくなった。
藤岡 陽子
小学館
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詩人が綴る感性のエッセイ。頭で理解するのではなく心で読み解く文章に私の感情が激しく共鳴した。好きなものは私が好きだから好きであって、他者のそれとは重ならない。自分のあらゆる感情を否定せずに守りたい。言葉は時として凶器になるほど強力だが、心の全てを伝えきる手立てにはならない。分かり合えないものを分かり合えないものとして共存したい。少し間隔を隔てて、互いを労るように。
最果 タヒ
読み始めは、お正月に晴れ着の袖に腕を通した時の様な、ひんやりとするけれど、背筋が伸びる心地がした。読後感は、凛と張り詰めた冬の冷たい空気の中に一輪の梅が咲き誇り香しく匂い立つ春の訪れの様に思えた。定められた身を流されながらも、時に抗い、ままならなさを嘆き、悔い、罪を背負い、様々な想いを抱えつつも、不条理という刀をいかにして己という鞘に収めるか。人の世を生きるということは、こういうことなのかもしれない。
砂原 浩太朗
まるで紫式部が語りかけてくるように描かれている。「世」ということ、「身」ということ。「世」とは世の中、「身」とは自分の立場。理不尽な世の中をままならぬ身で生きていく。出会いと別れの人生を憂いながら生きていく。それが世というもの。それでも生きたいと願うのが人というもの。だから、ただ生きていくのだ。歴史上の偉人ではなく、一人の女性としての紫式部に親近感を持った。世情が如何に変われども、人間の心の有り様に変わりはないのだ。千年前の女性に背中を押された気がした。
山本 淳子
前作よりよかった!人間が人間であるが故の悲しみ、苦しみ、愚かさ。被害者は当然のことながら、加害者も悲しすぎる。罪を抱えたまま墓場まで持っていく決意で生きることの地獄。亡くなった者も無念だが、被害者側であれ、加害者側であれ、遺された者が一番辛い。 写真がモノクロで、あまりにも普通であることが逆に不気味さを強調していた。
道尾 秀介