薄雪さんの感想、レビュー
辻村深月のデビュー作。 主人公は8人。 クラス委員の鷹野・深月・梨香・昭彦・充・清水と、委員会の活動に協力していた菅原、生徒会の副会長である景子。 全員大学受験を控えた名門私立青南学院高校の3年生。この学校ではこの冬の学園祭の最中、一人が飛び降り自殺をしていました。 しばらくして、雪が降るある日、学校に登校した8人は、校舎に閉じ込められてしまう。どうしても脱出することはできない。8人の中の1人であるホストの世界に閉じ込められているようだ。そして彼らは学園祭で自殺したクラスメイトの名前を、どうしても思い出せない。どうして大事なその一人の名前を忘れてしまっているのか。 教員室には学園祭直後に撮影された写真がありました。その写真には7人の学級委員と担任教師の榊が写っていますが、1人が欠けています。これにより、8人のうち誰かが実は自殺した生徒ではないかという疑念が浮上します。しかし、再確認しようとした瞬間、その写真は突然消えてしまう。 誰が自殺したのか、どうすれば帰れるのかを模索しながら、彼らは時間の止まった冷たい校舎の中で推理を始めます。自分たちが閉じ込められた理由と自殺者が誰であるかを解明するために、過去の記憶をそれぞれが辿り始める。またホストも過去に何があったのかを思い出すように仕向けていく。それぞれの回想を通じて、彼らが抱える内面の苦悩を明らかになります。自殺するほどの状態ではなかったことが判明したものは、閉ざされたこの世界ではマネキンの姿になり、元の世界に戻っていく。 ヒロイン役の辻村深月は、2年生になり友人であった角田春子に苛められ、精神的においつめられていた。自殺者ではないかと、作中で最も疑われていたが、他の7人の協力もあり、なんとか立ち直るまでに至っていたことと証言される。よって自殺者ではないのではないかと周囲は推測する。 片瀬充はとても温和かつ気弱な性格な男の子。『優しい』と評されることが多いものの、それは人を傷つけたくないが故のものであり、無責任な優しさだと自覚している。強く人を、自らを支えきれない、強くあれない自分を責めている。そして、校舎から飛び降り自殺をするような強い感情の前で立ち尽くすばかりだったと自分で思う。よって、マネキンとなり、学校から消えてしまう。 清水あやめは入学金・授業料免除のA級特待生。学業のみならず、美術部に所属し絵画のコンクールで受賞もしているスーパーウーマン。文化祭では、クラスの催し物のパンフレットの絵を描いてしまう。周囲の人とは異なってしまう、線を引かれてしまうという悩みを抱えていた。また、学校の成績などの順位を気にしてしまうという自分のスケールの小ささや、卑小さに寂しさを感じていた。本物とは違う、と。そして彼女はマネキンの絵となる。 藤本昭彦は常に落ち着いていてどこか達観している男子。中学生の頃、幼馴染みだが今までクラスも離れており、疎遠になっていた沢口豊とクラスメイトになる。実は沢口は前の学年の時にクラスの中心的な人物達と揉めたことが原因で、クラスメイトの殆どからいじめの対象になっていた。昭彦は別に彼を苛めも特別庇いもしなかったが、沢口は昔馴染みである昭彦を頼っていた模様である。沢口はだんだん不登校気味になり、結果、首を吊って自殺してしまう。そんな沢口のことを昭彦はずっと気に病んでいた。また、深月と春子とのトラブルの中で、いじめを行う、春子を敵視するようになる。そんな風な彼が自殺者であるはずがなく、やはりマネキンとなる。 充、あやめ、昭彦は皆ホストから責められています。思い出せ、自分たちのしたことを、と。上巻では飛び降りたのはだれか、なぜ皆はホストから責めれているのかは描かれていません。皆マネキンになり、冷たい学校から放出され、自殺者ではないことが1人1人明らかになっていきます。