ニックネームが設定されていませんさんの感想、レビュー
小山田与清(おやまだともきよ)を中心に江戸時代の蔵書家達について書かれた物。特に塙保己一の部分は気になる。江戸時代にこういう市井を含む好事家達が自分の蔵書を含めて、貴重な文献を遺してくれたのが知れた。最近気になっている本郷和人さんの史料編纂所の仕事は塙保己一の仕事の継承だと思うと感慨深い。平安時代から連綿と続いた学問が次第に成熟して、江戸時代についに国学を体系化したのかとも思う。平田篤胤は知っていたが、小山田与清はこの本で始めて知った。平田篤胤の思想はよく分からないが、与清の仕事は現代の私達にも貢献してくれていると感じる。書籍目録しかり、索引しかり…与清が扱った書籍は直接自分が読むことは無くても、彼がやった仕事は確実に本を選ぶとか、図書館のシステムにも反映されていると思う。 又、書籍に関する彼等の情熱は羨ましいくらいにわかる。そして蔵書家達のネットワークにも羨望を感じる。自分にも好きな本を語る仲間が欲しい。盲目の塙保己一の仕事には疑問しかなかったが、この本を読んで小山田与清や大田南畝らの仲間達も一緒に仕事をした事もわかったし、今現在本を読んでいて、読み方が分からなくて勝手に漢字の意味でスルーしてしまうけど、塙保己一の場合は音が絶対に必要だった訳だし、校閲の事を考えると尚更厳密に出来たのだろうと思った。しかし塙保己一の頭にはどれほどの書籍が記憶されたのだろう。彼の場合はその記憶は何時でもアウトプットが可能な物だったと考えると不思議な領域にも思える。日本でも古来には稗田阿礼という記紀を記憶する専門家がいた事を考えると、稀にそういう能力を持った人はいるのかと思った。ただし、文字が記憶の役目を担う事になって、人間はその能力を失ったのではと思う。便利になるという事は、何かを失う事にもなるのかもしれない。