医学の勝利が国家を滅ぼす
里見 清一
新潮社
作品紹介、あらすじ
画期的な新薬が開発され、寿命が延びる。素晴らしき哉、医学の勝利!…のはずだった。だがその先に待ち構えているものに我々は慄然とする。爆発的に膨張する医療費は財政の破綻を招き、次世代を巻き添えに国家を滅ぼすこと必至なのだ。「命の値段」はいかほどか。我々はいつまで、何のために生きればいいのか。雑誌発表時から新聞、テレビ等で大反響の論考を書籍化。巻末に作家・曽野綾子さんとの対談を特別収録。
感想やレビュー
この本で指摘しているように医療は行き過ぎると確かに私達のシステムを破壊するのだろう。日本は世界に誇れる健康保険制度を持つが故に、コストを度外視出来る素地がある。そしてその事に寄って誰も(著者以外)コストの問題について言って来なかった。しかし、今のままの野放しの状態ではある日突然崩壊してもおかしくないところまで来ている事が良くわかった。人の命に値段はつけられないのは自明の理ではあるが、全体を考えた時にはやはり何処かで線引きする必要がある事を実感した。現状を良しとしていては次世代が割を食ってしまう。そうならない為に矢面に立って批判している筆者に尊敬の念を覚える。そして、この問題は渡辺淳一も違う角度で作家になった当初に指摘していた。医療の発達に伴って本来であれば助からなかった命が助かる。それでその後普通に生活出来る迄に回復すれば良いが、重度の後遺症が残る場合が多々ある。家族は最初は命が助かって喜んでも、その後全てを犠牲にしてその面倒を見る立場になる。野田聖子議員の子供にしても彼女のエゴで産まれた子供が本当に幸福なのかと考えると、それは手放しでは認めにくい。こういった問題は議論そのものがしにくい事もあって、問題から目を背けがちだが今後の事を考えるとやはりきちんと議論しなければいけないように思う。しかし、私の嫌いな瀬戸内寂聴に言及していたのは笑えた。筆者の言う通りだと思う。彼女のように自分の生きたいように生きて周りを振り回した人間が、しかも仏門に入って煩悩を落としたはずなのに関わらず、生に執着するとか…何のための信仰?仏門に入らなくても自分の生を全うして慫慂として召される方も多いと言うのに。まぁ、最後まで悪あがきするのも又彼女らしい人生なのかもだが、とにかく彼女は反面教師としては最高の人だった事は確かだろう。笑笑