僕の耳に響く君の小説
安倍 雄太郎/げみ
小学館
作品紹介、あらすじ
僕と冬月は大学文芸部の同期。互いのために小説を書き合い、やがて互いに恋心を抱くように。ある日、冬月だけが大手出版社の小説新人賞を受賞。僕は醜くも嫉妬する。受賞の知らせの日は、彼女に告白しようとしていた日でもあったのに。そして二人のぎくしゃくした関係が何年も続き、冬月はある夜突然死んだ。その日、僕は彼女の誘いをむげに断っていた…。冬月への想いや後悔を持てあましたまま、彼女が最後に行きたがっていたカフェを訪ねると、冬月そっくりの少女がいて!?恋心と才能への嫉妬の狭間で、失った大切な愛を描く!小説に引き寄せられ、小説に引き裂かれた青春純愛物語。
感想やレビュー
主人公、夏目と冬月は、小説でつながり、小説によって引き裂かれた。 若い才能と、嫉妬と、甘い恋に彩られた、青春純愛小説。 印象に残ったフレーズ 「私が死んだ後も、私の書いた小説は残って、そして夏目くんをここに連れてきてくれた。」 小説の良いところは、「死後」も残るということかもしれないと思った。 また、小説家というのは、言葉に物凄く精通していて、いつでも腑に落ちるような最適な言葉を選択できるものだと思っていた。 でも、夏目も冬月も、ここぞという時に口下手で、ことごとく気持ちが伝わらないのが人間らしくて良いと思った。 また、私は小説と音楽が好きなので、しばしば小説と音楽のそれぞれの良いところを検討することがある。 今までは、「小説は言葉が違うと伝わらないけれど、音楽は言語の違いを超えて感動を伝えられる」という考え方だった。 しかしこの小説で、「音楽はその一瞬だけで、二つとして同じ演奏は存在しないが、小説は半永久的に残り、何度も同じように感動することができる」ことにも気づいた。 また、自分が死んでも、愛する人に想いを伝えることもできる。冬月が書いた「ラブレターの代わりに」がそれだ。 冬月は、死にたくなかっただろうか。死んでしまって、無念だっただろうか。そう思ってもなお、やはり死んでしまいたくなるほど、小説家というのは過酷なものだろうか。何ヶ月かの時を経て、夏目がその遺志に気づいた時、1番無念に思ったと思う。 でも夏目は、冬月のことを忘れずに、きっと小説を書き続けてくれると思う。