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100回泣くこと〔小学館文庫〕

100回泣くこと〔小学館文庫〕

中村 航

小学館

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作品紹介、あらすじ

実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだった。四年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げる。彼女は、一年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。愛犬も一命を取り留めた。ブックの回復→バイク修理→プロポーズ。幸せの連続線はどこまでも続くんだ、と思っていた。ずっとずっと続くんだと思っていたー。

感想やレビュー

印象に残ったフレーズ 「七月七日まであと一週間だった。その日が来て欲しくないほど、それを待つことが愉快だった」 その日を「待つこと」自体が楽しく思えるほどに楽しみなことがある経験は、誰しもあるものだと思うから、とても共感した。その出来事が本当に楽しみだと、待つこと自体がものすごく楽しい。 本としては、とても「人にお薦めしたい」と思える作品だった。その理由は主に3つあって、 一つ目は、文体の良さだ。ストーリー自体は、解説の島本理生も言っていたように古くから「よくある」ものだ。でも、この中村さんの文章のテンポ感や表現で、他の作品とは全然違う、唯一無二の世界観を作り出している。 二つ目は、二人の関係性だ。青春の甘い関係でもなく、かといってドロドロしているわけでもない二人の関係性が、好きだ。特に、作中に出ていた「コーヒーと牛乳が混ざっていつのまにかカフェオレになる」ような、自然と溶け合ってしまうような関係性が理想的だと思った。 三つ目は、主人公、藤井くんの心情の変化の良さだ。幸福の絶頂にいた時に、彼女が死に、一時はどん底に落ちたが、また立ち直って這い上がっていく様が素敵だと思った。藤井くんの、二人の関係性の捉え方も、「you」だったのが「we」に変わって、彼女の死をきっかけにまた「you」に戻るのだけど、それで、前よりもより心に刻み付けられているという表現に感動した。

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