私の人生は、私のものだ。しかし、私ひとりでは生きていくことはできない。これは人生における大きな矛盾であり、ジレンマである。
本作品の主人公は、自分のとった行動について、外から見た事実しか知らない他者から自分勝手な想像をされる。この想像は決して悪意に満ち溢れたものではなく、一般的な考え方や価値観に根付いたものであり、必ずしもその他者を非難することが難しいのである。ニュースから得た情報を元に考えれば、そう考えるのが妥当であるようにも思われるのだが、主人公からすれば大きな勘違いである。この主人公の知る真実と、客観的事実による想像の対立が、主人公やその周りの人物たちを混乱させている。主人公の真実は真実であろうし、他者による評価も一般的な解釈によるもので、その当事者になればどちらの立場にもなりうるのであるが、これが人間関係の難点でもある。
自分の人生は自分の思うように生きていくことは理想であるが、他者なしには人生は歩めない。だからこそ主人公は、他者からの自分への解釈に苦しみ続けていたのだろう。そんな主人公がラストに、自分と自分の大切なものを優先することを選び、他者の考えは他者のもの、という割り切りをしたことは印象的であった。終盤の、「その判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。」という文からは、主人公の決意と未来の進め方が強く感じられ、心に残った。
この世界のどこかで、この登場人物たちが生きている気がする。そんな作品を描いた作者の文章力に感嘆する。