まち
小野寺史宜
祥伝社
作品紹介、あらすじ
両親を亡くし、尾瀬の荷運び・歩荷を営む祖父に育てられた江藤瞬一は、後を継ぎたいと相談した高三の春、意外にも「東京に出ろ」と諭された。よその世界を知れ。知って、人と交われー。それから四年、瞬一は荒川沿いのアパートに暮らし、隣人と助け合い、バイト仲間と苦楽を共にしていた。そんなある日、祖父が突然東京にやってきて…。孤独な青年が強く優しく成長していく物語。
感想やレビュー
両親を亡くし、祖父に育てられた瞬一は、祖父の諭しによって東京に出て生活する。 それから早四年、荒川沿いのアパートに暮らし、日雇いの引越しのバイトをしながら食い繋いでいた。隣人との温かい交流の中で、孤独だった瞬一は、強く、優しく成長していく。 印象に残ったフレーズ 「両親の記憶はあまりない。でも両親には僕の記憶がある。充分だ」 あまりに幼い頃に両親を亡くし、両親の記憶がないことを悔やむ瞬一に、隣人・敦美が言った言葉。自分も、誰かを憶えておくことも大切だろうけど、誰かの記憶に残るような、大切な人になりたいと思った。 この本の、人と人との関わりが好きだ。自分自身も東京に出ることに憧れがあるから、この本で東京の、いい意味で「らしくない」一面を見て、こんな暮らしもいいな、と思った。瞬一は、多くの人と良好な関係性を築いていたが、それは瞬一の、人との距離感を測ることに長けた性格が役に立っていると思う。彩美が最初は虫を退治してくれるだけの関係だった瞬一に心を許していく描写が、いいなーと思う。 それから、帰れる場所がある、ということは、尊いことなのだと感じた。瞬一にとって、地元の片品村はもちろんのこと、筧ハイツも紛れもなく彼の「故郷」だと思う。 人は時として-照士のように-人を怯えさせるが、時として本当に暖かいな、と思った。適度な距離感だと、時にその温かさが身に染みることがあるから、周りにいる人は大切にしなければならないと思う。
読んでほんわりとした暖かい気持ちにさせてくれる。面白い。