あなたはここにいなくとも
町田 そのこ
新潮社
作品紹介、あらすじ
「おつやのよる」祖母が急逝し、葬儀のために親族が集まる。清陽は祖母に交際相手を紹介できなかったことを悔やむが、原因はその親族にあって…。「くろい穴」美鈴は不倫相手から栗の渋皮煮を作ってほしいと頼まれるが、そもそも食べたいと言っているのは、彼の妻だった。日曜日、ひたすら栗を煮詰めていると…。ままならない人間関係、避けられない別れーもつれた心を解きほぐし、本当の自分を取り戻すための、5つのやさしいレシピ。
感想やレビュー
先を生く人は、奥深い。
5編の短編小説。どの話にもおばあちゃん、老婆、老婦人といった類の人が絡んでいる。ここにいない は、この世にいないという意味。もう亡くなっていても、誰かに影響を与えた という感じか!
町田そのこさんの言葉はどうしてこ、沁み込んでくる。最近、大切なものを失う怖さをすごく感じるけれど、それを言葉にしてくれる本だった。タイトルだった。 おやつのよる 言葉やしぐさ、考え方の端々にあの人たち(家族)がおるんや。パーツみたいなもんかな。 ばばあのマーチ わたしにほ、記憶の隅に転がっていた些細な思い出だった。取り立てるほどじゃない、小さな思い出。それが、誰かの背中を支えている強さがあったのか。 入道雲が生まれるころ ひとと繫がりを築くというのは、トランプで精巧なタワーを作るのに似ていると思う。常に緊張感を強いられ、維持するのにも注意を払わなければいけない。ささいなやりとりで笑い合う時間をかさねるたび、わたしは自分の背に積み上がっていくトランプの存在を感じた。 先を生くひと 恋はひとそれぞれ。自転車と一緒。うまく乗れる子もいるし、何回もこける子もいる。自分じゃ乗りこなせなくても、この自転車じゃないと嫌だってこだわる子もいるわけよ。 後悔しないように。それだけを忘れなければいい。もちろん、大変なことがたくさんあるでしょう。頑張ったからって成果がてないこともある。でも、どんなに辛いことや哀しいことがあったとしても、大丈夫。やっぱり憂うことないの。だって、きっといつか、何もかもを穏やかに眺められる日が来る。自分なりに頑張ったんだからいいじゃないって言える自分が、遠い未来にきっといる。だから大丈夫よ。だから安心して傷つきなさい。安心して、生きなさい。後悔や心残りだけはないように頑張りなさい。
もうこの世にはいない祖母、最後まで孫の幸せを願っていた祖母、今ここにいなくても、その想いが届いていく…登場人物たちのままならない人生を、心のわだがりを、少しづつ変えていく短編集。