上海灯蛾
上田早夕里
双葉社
作品紹介、あらすじ
一九三四年上海。「魔都」と呼ばれるほど繁栄と悪徳を誇るこの地に成功を夢見て渡ってきた日本人の青年・吾郷次郎。租界で商売をする彼のもとへ、原田ユキヱと名乗る謎めいた女から極上の阿片と芥子の種が持ち込まれる。次郎は上海の裏社会を支配する青幇の一員・楊直に渡りをつけるが、これをきっかけに、阿片ビジネスへ引き摺り込まれてしまう。やがて、上海では第二次上海事変が勃発。関東軍と青幇との間で、阿片をめぐって暗闘が繰り広げられる。満州から新品種を持ち出されたことを嗅ぎつけた関東軍は、盗まれた阿片と芥子の種の行方を執拗に追う。一方、次郎と楊直はビルマの山中で阿片芥子の栽培をスタートさせ、インドシナ半島とその周辺でのモルヒネとヘロインの流通を目論む。軍靴の響き絶えない大陸において、阿片売買による莫大な富と帝国の栄耀に群がり、灯火に惹き寄せられる蛾のように熱狂し、燃え尽きていった男たちの物語。
感想やレビュー
重いテーマで、終始破滅の匂いがする小説だったが、期待通り読みごたえがあって満足。 阿片とマフィアと魔都上海。戦前の上海の清濁混合ぶりはやはり魅力だ。 この作者の小説は、暗い題材を扱っていても何故か嫌な感じがしない。結構きつい描写も多いのに、不思議と読み進められる。 作者の文章の個性だろうか。