右大臣実朝 他一篇
太宰 治
岩波書店
作品紹介、あらすじ
「右大臣実朝」は、戦時下に書かれた太宰治(1909-48)の歴史小説。歌人にして為政者、中世の動乱期に悲劇的な最期を遂げた源実朝。そこには破滅に突き進む同時代への作者の想いが託されていた。歴史文献『吾妻鏡』に記された内容が、独自の幽美な文体によって解き明かされていく。本作の創作の経緯を解き明かした随想、「鉄面皮」を併載。
感想やレビュー
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が念頭にあったので、バイアスはかかったが登場人物や出来事が頭の中で整理されて読みやすかった。 久しぶりに近代日本文学を読んだが(太宰治をそんなふうに大雑把にくくってよいかは置いておいて)、一文の長い独特の文調が心地よかった。 近習は果たして「信頼できる語り手」なのかずっと疑問だった。実朝が亡くなってから20年近く経っている上、語り手の近習は実朝をかなり慕っているようだから、彼の語る実朝像は美化されているのではないかと思う。 終盤の、語り手の近習と公暁との会話が生々しくて良かった。公暁の語る実朝像も、もちろん偏ったものであると思うけど、実朝には確かにそういう面もあるのではないかと感じた。 「鉄面皮」も面白かった。「人間失格」に通ずるところもあって、太宰治の繊細さが伝わってきた。太宰治は、人間の弱いところ、上手くできない心にすっと染み込む中毒性があるとあらためて感じた。
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