大人は泣かないと思っていた
寺地 はるな
集英社
作品紹介、あらすじ
時田翼32歳、農協勤務。大酒呑みで不機嫌な父と二人暮らしで、趣味は休日の菓子作り。そんな翼の日常が、庭に現れた柚子泥棒との遭遇で動き出す──。人生が愛おしくなる、大人たちの「成長」小説。
感想やレビュー
「ものすごーく好きになれる相手って、実はあんまりいないもんだよね。出会いなんていくらでもある、と言うひともいるけど、すごく気の合う相手も好きになれる相手も限られてる。ほんとうに一生に一度、現れるかどうかだよ。」 友達も恋人もそうだと思った。 「家族って会社みたいなもの。会社って、ひとつのもくてきのために、いろんな人が集まるでしょ。みんなでそのひとつの目的を達成するために、力を合わせるでしょ。血がつながってたってさ、他人だよ。親子になるのだって、きょうだいになるんだって、偶然だよ。面接や試験で集まった人間の集合体と、たいして変わんないよ。気が合わないやつも、虫が好かないやつもいっぱいいるけど、協力しなきゃいけない。仕事だからさ。目的はそりゃ、『生きていく』ことだよ。生きていくって、言うほど簡単なことじゃないよ。ただ息をして、食事をして寝て、働いて、ただそれだけやり通すのはおおごとなんだから。生きていくのは大事業だよ。その事業が継続できるならさ、どんな編成だっていいんだよ。お母さんが3人いたって、夫婦ふたりだけだって、子どもが二十人いたって、全員に血の繋がりがなくなって、うまくいってるんならいいと思うんだよ。もちろん、ひとりだってさ。」 「お父さんは退社した。わたしは独立した。でももとの会社もつながっている。新たな会社は慣れないことばかりで大変だし、新規採用はまだまだ教えることがたくさん。たしかに、生きていくのは大ごとかもしれない!力を合わせないとね。」 「ひとがひとりいなくなりということは、ひとつの物語が消滅するということだ。」→こういう表現が寺地さんぽくていいな、と思う。
ちょっと不器用だけど、ユーモアがあって、ほんわかする話。