¥の歴史学
三上隆三
東洋経済新報社
作品紹介、あらすじ
わが国の貨幣の名称として世界的に知られている「円」。明治四年五月の「新貨条例」によって正式に定められたその通貨単位は、実はいろいろな謎をもつ不思議な呼称なのである。新しい貨幣が「円」と定められる前に円と呼ばれていたのはなぜか、円の横文字表記はなぜ「EN」ではなく「YEN」なのか、円を表すマークである「¥」はいつ、どのようにして生まれたか。本書は、そまざまな資料をもとにこれら「円」に秘められた謎を解き明かす、異色の貨幣物語である。
感想やレビュー
円の誕生に纏わる謎を追った本。 とはいえ、これは史家や専門家の間では、明治初期の皇居の火災によって公文書が消失した事に寄り、公文書での確定が不可能とされている事になっている。 円の前史とも言える1800年代初めからの、幕末の私文書を通して、幕末の知識人の間では円はちょっとした流行り(というか先端)として、幕府への反発心からなのか、例えば高野長英や橋本左内などの私信に使用されている。又、明治初期のまだ江戸時代の貨幣が流通している時にお寺への寄進を記録したパンフレット様の物にも円が記載されている事例があって、前史も70年近くにも及ぶと知識人だけではなく、一般の人々にもそれなりに浸透していたのではないかとの事例もあげてあった。 このように、円の名称の誕生のはっきりとした公文書自体は発見されずとも、この議論のかなり以前から円は日本人の間で通貨の名称として普及し始めていたのではないか。ようするに明治2年3月4日の参与会議で形状と十進法の採用などの決定を見たが、名称までの議論はなされなかった。その後外交文書に登場した物(明治2年7月2日)の確認が取れただけどなっている。 そして明治4年の新貨条例の公布で突然「円」が登場したように見えるのである。 この辺を丹念に幕末の文書を追うことで、円の誕生を位置づけした本だと思う。