冬のデナリ
西前四郎
株式会社 福音館書店
作品紹介、あらすじ
大学を中退した米国人ヒッピーと日本人の若者が出会い、大きな夢に向かって歩きはじめた。二人が目指したのは「冬のデナリ」。零下五十度。風速毎秒五十メートル。高度六千メートル。暴風雪。そこは人類にとって未知の領域だった…厳冬期マッキンレー初登攀を達成した若者たちの夢と挫折を描く。小学校上級以上。
感想やレビュー
第1部 旅立ちの夏 第2部 白い風の冬 第3部 みどり甦る季節 1967年に厳冬期のデナリ(旧名マッキンリー)初登攀を達成した8人の若者?(22歳~39歳)の夢と挫折を描いたノンフィクション作品。 そのうちの1人が著者の西前氏である。 著者は、自分の代わりに児島次郎(またはジロー)という仮名で登場している。 零下50度、風速50m、高度6000m、酸素量は平地の半分、日照時間は7時間、無数のクレバス、荒れ狂うブリザードそして闇とオーロラ。 そんな、人類にとって未知の領域に現代とは比べ物にならないほどの装備で挑む。 西前氏はこの話をいつかは語りたいとは思いながらも、悲しみ、怒り等の複雑な感情の中で書き出すことができず、30年近い時を経て執筆に至る。 帰国後、高校教師であった西前氏は、「子ども劇場」の会員として高校生をアラスカへ一週間の冒険旅行に連れて行ったりとエネルギッシュに活動されていたようだ。 参加した高校生の作文が紹介されているが、かけがえのない体験を通して新しい自分を発見したというとても印象深い内容である。 西前氏談 「『いい体験をしたら、高校生は3日で変わる』と言ってね、その変わり目を待つのがつらいんだけど、きっかけさえあればみごとに変身するのを何度も見てきたよ。これが教師の醍醐味だよ。」 「『冬のデナリ』の失敗でぼくの青春、ぼくの冒険は終わったと思っていたけど、今、考えてみると人生の冒険は始まったばかりだった。日本の教師の仕事は教科を教えるだけじゃないからね。学校でも地域でも、現状から一歩二歩出ていかなければと力のはいることばかりで、その手ごたえを楽しんでいるうちに、気が付いたらもう退職の年なんだ。」 ふと、私の祖母が昔作った短歌を思い出した。 「ファミコンといふ化け物に取り憑かれし孫を連れだし七草を摘む」 私もパソコンばかりしておらずに息子たちを野山に連れだそう。